2021/12/03
妊娠中、特に7-8ヶ月以降になると腰痛を訴える方が多くなります。赤ちゃんを抱えた子宮の重みで、体の軸やバランスが変わってしまうために、動作毎に使う筋肉に余分な負荷がかかったり、大きくなった子宮自体に背骨が圧迫されたりするためです。痛みだけでなく、重心が体の前側に来るため、何かを拾おうとしたらよろけたり、しゃがんだら立ち上がるのに苦労したり、動作そのものが困難になりがちです。寝ているときに痛みで寝返りが打てなくなることもあります。
このような腰痛への対策として、私は「ボディメカニクス」を使った立ち居振る舞いの注意と、「骨盤支持」の二つをお勧めしています。
ボディメカニクスというのは、看護や介護を担う方々が体を痛めずにケアに携われるように考案された技術で、看護学校に入ると最初くらいに習います。人間の骨・関節・筋肉などの解剖学から導き出されたそれは、看護や介護の分野以外にも広く役立つ物です。その中から、妊婦さんが日常の家事の中で使える簡単な注意をお知らせします。
それは、「足を揃えて立たない」と言うことです。
キッチンに立つとき、洗面所に立つとき、腰を折って前屈みになりますね?その時に、両足のつま先を揃えて足を真横に広げて立つ方が殆どだと思いますが、その姿勢が一番腰への負荷が強いのです。一度の洗面や洗い物は短時間だとしても、積もり積もって腰痛に発展します。特に後期の妊婦さんは重心が前に偏っているために、屈んだ姿勢を保つのには腰や背中の筋力が余分に必要です。
何かをするとき、常に片足を半歩前に出し、重心を二つの足の間に置くつもりで立ってみて下さい。そのまま前屈みになると、自然に前側の足の膝が曲がって、太ももとお尻の大きな筋肉に力が入るのが分かると思います。キッチンなどで長く作業が続くときは、時々この足を左右踏み換えるようにします。
床から物を持ち上げるときも、例え小さく軽い物でも、気軽に腰をかがめて拾うのではなく、片足を一歩前に出して腰を落としましょう。立ち上がるときは重心を両足の間にキープしたまま太ももの筋肉で体を押し上げます。
いつでも片足を半歩、一歩出して立つ、動作をすると心がけると、妊婦さん特有の腰をそらしてお腹を突き出させた立ち方を防ぐので、自然に重心が安定し、肩こり・腰痛・背中の張りなど、様々なマイナートラブルを軽減できますよ。
もう一つ、骨盤支持とは、骨盤にベルトを巻いて支えることです。現在は沢山のメーカーから骨盤ベルトが販売されていますね。妊婦さんのマイナートラブル解消のために骨盤支持を早くから提唱して骨盤ベルトの先駆けとなったのが「トコちゃんベルト」と呼ばれる、「青葉」という会社の物で、既に酷い腰痛があるという方ならお持ちかも知れませんね。これは骨盤をとてもしっかり支えて痛みの軽減に役立ちます。痛みが酷くて歩くのに差し障りがあるような方は青葉の製品を見てみて下さい。
ただ、現在骨盤ベルトとして売られている物の大半は、かなり堅かったりボーンが入っていたりして、洋服の上からしか使えません。妊娠後期になるとおトイレが頻繁になるので、その度に着け外しするのが煩わしくて痛みを我慢している方が多いようです。
妊婦さんに腰痛の相談を受けたとき、私が最初にお勧めするのは、もっと柔らかくて肌に直接巻ける物で骨盤支持を試すことです。商品としては、「膝用サポーター」や「ふくらはぎ用バンデージ」などとして売られている物で、幅7-8㎝程度、長さ100-120㎝程度の物を幾つか通販サイトで見つけました。
これを、パンツも下げ、裸のお尻の下に敷いて横になります。妊娠後期の方なら、お尻の下にクッションなどを置いて、腰が少し上がるようにし、赤ちゃんを胸側に押し上げておきます。足の骨が左右に一番出っ張っている所の少し上にベルトが来るようにしましょう。
お尻の脇のベルトを左右に引っ張り、ややテンションをかけてベルトを体に巻き付けて止めます。前側はややお腹の膨らみに掛かっているでしょうから、重なっている二枚をまとめて真ん中を下に引っ張り、恥骨の前に押し下げましょう。ベルトがややV字になって、お腹の膨らみの下を丸く支える形になれば、ベルトの上にパンツを履き、衣服を整えて起き上がります。
これだと体の動きに沿ってベルトが伸縮するので圧迫感がない割に、サポート力はあって身動きが楽になります。寝ている間も着けられるので、寝返りの痛み防止にも。また、赤ちゃんの重みで子宮全体が下がり気味の方は子宮の不規則な収縮が起きやすく、切迫早産になりやすいのですが、これも骨盤支持でお腹のずり下がり防止が出来ると予防に効果的です。さらに妊娠後期に起きやすい頻尿や尿漏れにも防止効果があります。このようなマイナートラブルにお困りの方は是非お試し下さい。