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おっぱいって、どうすればよく出るの?~母乳分泌の仕組み 助産院 北野ミッドワイフリー ブログ, 母乳育児

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母乳が足りない?~生まれてすぐの赤ちゃん


初産の妊婦さんにアンケートを採ると、9割ほどの方が「赤ちゃんを母乳で育てたい」または「母乳がよく出れば母乳で育てたい」と答えています。母乳の良さ、例えば赤ちゃんに免疫を着けて丈夫にする、お母さんのダイエットに効果的、道具が要らないので便利、などは現在よく知られていて、わざわざ解説は必要ないようです。ですが、9割のうち、「良くでれば」の方が多い調査も多く、母乳については「出ればラッキー」と言う意識なのだなと分かります。
母乳がよく出るお母さんとそうでもないお母さんがいることは否定しませんが、自分で産んだ子どもを育てられないほど母乳が出ない方は、滅多にいないものです。例えば1ヶ月健診のときに母乳だけで赤ちゃんを育てている方の割合は、産院ごとに9割を越えているところから、2割程のところまで様々です。つまり、おっぱいのことをよく知っていて、適切にケアをしてくれる産院で産みさえすれば、ほとんど「よく出る」側にまわれると言えます。

適切に、とは、何でしょうか。

まず、自然のプロセスを大切にした、お母さんの心身の疲労の少ないお産をお手伝いすること。産まれた赤ちゃんをお母さんから引き離さないこと。楽で効果的な授乳ができるようお手伝いすること。お母さんが質量ともに最大限眠れるように配慮すること。お母さんの心配事を少なくすること。などです。もちろん、全部完璧にできている産院などあり得ないほど、どれも難しいのですが。

このなかで、先ほどの2~9割の数字の差に最も影響するだろうと思うのが、お母さんと赤ちゃんを引き離さないことと、効果的な授乳をお手伝いすることです。おっぱいは、お母さんにくっついていますが、赤ちゃんのものです。赤ちゃん自身が、上手に一生懸命吸って、初めて上手くいきます。

赤ちゃんが上手に吸い付くために、まずはお母さんの乳首以外のものに安易に吸い付かせないこと、余分なものを飲ませておっぱいに吸い付く意欲を削がないことが大切です。そして、もし赤ちゃんがあまり上手に吸っていないときには、いち早く察知して、抱きかたや吸い付かせ方を工夫して、より効果的な授乳ができるようにします。赤ちゃんが上手に吸わないと、乳首が痛かったり、吸わせているのに結局飲めていなかったりして、お母さんの体が本来持つ母乳分泌の力を活かしきれなくなり、出るはずの母乳が出なくなってしまいます。

母乳は赤ちゃんの求めに応じて、つまり需要と供給の原理にしたがって出るものです。産んですぐの2日ほどは母乳はほとんど出ません。お腹の中で赤ちゃんに栄養や酸素を届ける物流ステーションのような役割をしていた「胎盤」から、「今はまだ赤ちゃんがお腹に入っているから、おっぱいは要りませんよ」というホルモンが出ていました。赤ちゃんと共に胎盤が出ても、そのホルモンがお母さんの体から無くなるのにまる2日はかかります。それからやっと母乳が出始めます。よく、「赤ちゃんは3日分のお弁当と水筒を持って生まれる」と言います。正期産で産まれた普通の赤ちゃんは、3日くらいは飲まず食わずでも大丈夫なように出来ています。母乳が出始める前、生まれてすぐから赤ちゃんはおっぱいを吸いたがります。何も飲まなくても、チュクチュクと口を動かすと腸が動くので、お腹の中に溜まっていた「胎便」と呼ばれる黒緑色の便を沢山出します。実はこれが腸に詰まっている間は何か飲ませても消化しにくいので、結局栄養にはなりません。また、胎便には大量の胆汁が含まれるため、長く腸に留まると黄疸がひどくなります。2日ほど掛かって10回以上、胎便をやっと出し切った頃に母乳が出始めるのです。お母さんの体と赤ちゃんって、本当に良く出来ていると思いませんか?

赤ちゃんが乳首をチュクチュクと吸うと、その刺激が脳に伝わって母乳を出すホルモンが出ます。すると乳腺が動き出して母乳を作ろうとします。最初のうちは乳腺の動きも鈍く、材料になる血液が無いので母乳は出ません。2日を過ぎておっぱいを止めていたホルモンが減ると、乳房へ母乳の材料になる血液がどっと入ってきます。このときに乳腺が活発に動けると、スムーズに母乳が分泌されます。赤ちゃんの栄養や水分の蓄えを信用できなくて、早くから哺乳瓶で人工乳を与えると、赤ちゃんがお母さんの乳首を上手に意欲的に吸わなくなるため、乳腺の動きが鈍いまま材料が運び込まれ、血液が乳房に溜まって「エンゴージメント(乳房鬱積)」を起こします。乳房がカンカンに張って痛みがあり、熱を持ちます。多くの産科関係者がまだこの現象を当たり前のことと思っているのが現状です。「おっぱいが張るまではゆっくり休んで」と赤ちゃんを預かってたっぷりミルクを飲ませる施設で、母乳率は最低レベルになります。

効果的な授乳の方法については、「乳首が痛い~産まれてすぐの赤ちゃん」の記事をご参照ください。なぜ他のものに吸い付かせてはいけないかについては、「おっぱいに吸い付かない」で解説しています。

産んで最初の数日は、これまで解説したホルモンの動きによって、上手に飲む子が居ても居なくても、おっぱいは母乳を出そうとします。産後10-14日ほど経って順調に母乳が出ていると、乳腺のフィードバック機能が働いて、作った母乳がどれだけ排出されたかがモニターされます。赤ちゃんが上手に一生懸命吸って、乳腺が空になるまで飲んでくれれば、おっぱいはどんどん活性化して沢山出るようになりますし、赤ちゃんが効果的に吸っていなかったり、人工乳で眠りがちになって意欲が無かったりして母乳が飲み残されることが続くと、「飲む子が居ない」と判断されて分泌は減ります。これが「需要と供給の原理に従って分泌される」と言うことです。不幸にして死産になったとき、いつまでも母乳が出ているとお母さんの体力を消耗するので、このような仕組みになっています。産科施設でまだまだ発展途上のおっぱいに対して、分泌不足の烙印を押し、「あなたは母乳が足りないからこれだけ人工乳を足しましょう」と指導して退院させると、その後分泌が増えても人工乳の追加がずっと続いてしまいますし、そのまま混合授乳になる方が多くなります。混合授乳の方は、母乳が足りないから混合、と仰いますが、混合にしているからミルクを飲んでいる前提とする量に母乳分泌が抑えられてしまうのです。一度混合授乳に落ち着いてしまった方でも、赤ちゃんと共に効果的な授乳を実現し、少しずつ人工乳を減らすと、母乳分泌を増やすことが出来ます。その方法論については、「混合授乳から母乳を増やすには?」で解説しています。

母乳を沢山出すためのお茶や食べ物があれこれ言われていますが、お母さんが脱水や栄養失調でない限り、特別な物は必要ありません。飽食の日本にあって、日本人的な感覚で「ちゃんと食べよう」と思って暮らし、喉が渇く前に水分をとる習慣があれば充分です。ただ、カフェインは血管を収縮させる作用があるので、煎茶やコーヒーなどは飲み過ぎないようにしたいですね。

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